スポット薬学講座 No. 11 臨床薬学講情報薬科学分野

臨床薬学講座情報薬科学分野 教授 西谷 直之

 がんは、早期に発見できれば完治も望めますが、病状が進むと抗がん剤による薬物治療の効果には限界があります。進行がんの薬物療法を困難にしている原因の一つが、効いていた薬が効かなくなる耐性化です。我々は、抗がん剤耐性を克服するために、下記の2つのアプローチで取り組んでいます。

アプローチ1:耐性がん治療薬の開発

新しいタイプの抗がん剤として、分子標的薬に分類される医薬品が続々と開発されています。分子標的薬は、がん細胞が依存する分子を狙い撃ちするため、がんに特異的に作用すると考えられています。一部の肺がん(EGFR遺伝子に変異のある非小細胞肺がん)に用いられるEGFR阻害薬ゲフィチニブやエルロチニブは、劇的な治療効果を示します。しかし、治療開始1年程度で耐性が生じ、再発することが知られています。この再発肺がんの50%には耐性変異(EGFR T790M)が見つかりますが、2016年に販売開始されたオシメルチニブを用いることで対処できます。しかし、オシメルチニブに対する耐性(EGFR T790M/C797Sなど)も報告されており、今のところ、EGFR T790M/C797S変異に有効な医薬品は販売されておりません。我々は、オシメルチニブ耐性肺がんに有効な新規医薬品シードとしてラメラリン誘導体を創出し、今年3月に国際特許出願いたしました。

アプローチ2:併用療法のための治療標的の探索

 耐性との戦いは、がんだけではなく、感染症の領域でも繰り広げられています。HIVは耐性化しやすいウイルスですが、作用点の異なる複数の薬剤を併用することで耐性化を抑制することができます。一方、がん分子標的薬では、ほとんどのケースで耐性化します。その原因の一つは、治療選択が限られ、論理的に併用効果が期待できる薬剤が不足していることです。我々は、モデル生物であるゼブラフィッシュの受精卵を利用して、新たな治療標的を開拓する方法を開発しました。この方法で同定された治療標的は薬剤に結合する性質があるため、併用分子標的治療に応用できると期待しています。

 分子標的薬の特徴として、古典的な抗がん剤に比較して正常細胞への毒性が低い事が挙げられます。分子標的薬への耐性を克服し、患者さんがその人らしく生活できる期間を延長することに貢献したいと考えております。

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