薬科学講座天然物化学分野 准教授 林 宏明
漢方薬の有効性評価の進展とともに漢方薬の使用は拡大しており、その原料として使用される生薬の需要も増大しています。一方で、これらの生薬の多くは中国からの輸入に頼っており、中国の急速な発展に伴う使用量の増加や産地の環境破壊により、漢方薬の原料生薬の確保が重要な課題になっています。
麻黄は、風邪やインフルエンザに用いられる葛根湯や麻黄湯、鼻炎に用いられる小青竜湯、肥満症に用いられる防風通聖散などの漢方薬に使用される生薬で、年間500トン程度使用される全量を中国からの輸入に頼っています。
筆者は、国際協力機構(JICA)と日本学術振興会(JSPS)が協力して実施した科学技術研究員派遣制度により、中央アジアのタジキスタンに滞在し、麻黄の原料植物である Ephedra equisetina や Ephedra intermedia の自生地を調査する機会を得ました。
これら2種のマオウ属植物は日本薬局方で規定されている麻黄の基原植物であり、日本国内で漢方薬の原料として使用することができます。麻黄の有効成分であるエフェドリンやプソイドエフェドリンは交感神経興奮作用を持ち、気管支拡張薬として風邪薬に配合される医薬品でもあります。
タジキスタンが旧ソ連の構成共和国だった時代には、麻黄を収穫して旧ソ連国内で医薬品原料として使用されるともに、生薬として日本に輸出されていました。しかし、タジキスタンでは旧ソ連の崩壊後の内戦の混乱もあり、現在では麻黄は全く利用されていません。タジキスタンの調査で採集したマオウ属植物は、種間や系統間で大きな成分変異があり、エフェドリンとプソイドエフェドリンの含量比が大きく異なっていました。エフェドリンよりも抗炎症作用が強いとされるプソイドエフェドリンを多く含有する Ephedra intermedia は、鼻炎に用いられる小青竜湯の原料として期待されていますが、現在の中国国内の資源量から使用されていません。また、麻黄の新たな有効成分として注目されているフラボノイド成分に関しても、大きな成分変異が系統間に存在することが私たちの調査で明らかになりました。
漢方薬に用いる麻黄はどのような麻黄が良いのか?栽培による麻黄資源の確保とともに、漢方薬原料としての新しい品種の確立を目指して研究を進めています。