臨床薬学講座地域医療薬学分野 教授 高橋 寛
国民の2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで亡くなる時代になっています。がん患者に対する緩和医療が進むにつれ、医療用麻薬の処方も増加しています。当分野では、岩手県内の全保険薬局を対象に、Web上にてアンケートを実施し、医療用麻薬の供給体制の実情を調査しました。
医療用麻薬を取り扱うためには、麻薬小売業の免許(以下麻薬小売業とする)を取得する必要がありますが、麻薬小売業を取得している保険薬局の多くが、岩手県の10医療圏のうち特に盛岡医療圏に集中しています。(全体の42%)(図1)
また、麻薬小売業を取得した保険薬局の6割しか過去1年間に麻薬処方箋を受けておらず、その多くは年間の麻薬処方箋受付が20枚以下であり、一部の保険薬局に麻薬処方箋が集中していました。そのため麻薬小売業を取得していても、麻薬を在庫していない保険薬局が約2割存在し、医療用麻薬はどこの保険薬局でも供給できる体制にはなっていません。さらには、がん性疼痛以外で医療用麻薬の処方箋を応需した経験のある保険薬局は、約3割存在し、医療用麻薬ががん疼痛緩和以外の多様な用途で処方されていました。
一方保険薬局では、医療用麻薬の服薬指導において、疾患名や告知の有無などの患者情報が医療機関から入手しにくいことや患者側の医療用麻薬に対する誤解や抵抗感などがあり十分な服薬指導が実施されていない実態が見えてきました。医療用麻薬の多様な用途に対応するための患者情報の共有や患者さんへの医療用麻薬に対する教育が医療用麻薬の情報提供を行う際の課題です。(図2)
医療用麻薬は返品ができないため保険薬局は在庫を躊躇しがちですが、がんの疼痛緩和など在宅医療を推進する上では必要な医薬品です。今後はがん性疼痛以外での使用など多様化する中で、医療用麻薬が広く処方されることが想定されます。供給のみならず、適正使用や副作用への対処、さらには未使用となった医療用麻薬の回収などまだまだ課題があります。物流の面だけでなく、患者情報の共有の面からも、地域の拠点薬局を中心とした医療用麻薬の供給体制を検討し、地域医療の発展に寄与したいと考えています。