スポット薬学講座 No. 17 糖と糖鎖のお話

病態薬理学講座臨床医化学分野 教授 那谷 耕司

糖と糖鎖のお話

 糖と言えば,エネルギー源としての糖,ブドウ糖(グルコース)をイメージされると思います。最近は悪者扱いされることが多いグルコースですが,生命にとっては最も重要なエネルギー源です。ところが,体の中にはエネルギーとは関係のない,体を構成する成分としての糖,糖鎖が存在しています。その代表がABO式血液型を決めている糖鎖です。O型の人の赤血球の表面には4つの糖がつながった糖鎖が存在しており,その糖鎖にA型ではN-アセチルガラクトサミンという糖が,B型ではガラクトースという糖が結合することでABO式の血液型を作り出しています。

血液中のグルコースの濃度は,膵臓に存在するβ細胞で合成,分泌されるインスリンというホルモンによって調節されています。臨床医化学分野では高橋 巌 助教が中心となって, N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸という糖が200個程度交互につながっているヘパラン硫酸という糖鎖がコアタンパク質に結合したプロテオグリカンと呼ばれている複合糖質(図1)とβ細胞の機能との関連について研究を進めています。

高橋助教は,ヘパラン硫酸がβ細胞に存在していることを初めて見つけました(図2)。そこで,このヘパラン硫酸を合成するEXTL3という酵素の遺伝子を欠失させたマウスを作製したところ,β細胞の発生が遅れることがわかりました。また,EXTL3遺伝子を欠失したマウスではインスリンの分泌が低下しており,糖尿病の一歩手前の耐糖能異常という状態になることがわかりました。さらに研究を進めたところ,プロテオグリカンを構成しているコアタンパク質のなかでもシンデカンファミリーに属するシンデカン4と呼ばれている膜結合型のコアタンパク質がβ細胞のインスリン分泌に関連していることがわかってきました(図1)。シンデカン4の遺伝子を欠失させたマウスでは,EXTL3遺伝子を欠失させたマウスと同様にインスリンの分泌が低下しており,耐糖能異常が生じました。培養細胞を使った実験では,シンデカン4遺伝子の発現が上昇するとグルコースに応答したインスリンの分泌が亢進することがわかっています。薬物の投与などにより体の中でシンデカン4遺伝子の発現をコントロールすることができれば,新たな糖尿病治療法の開発につながる可能性もあります。

以上,糖;グルコースと糖鎖;ヘパラン硫酸プロテオグリカンのお話でした。

 

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