Dr OZくすりのよもやま話 (26)

くすりの効き方の不思議さ・面白さ・・・(13)
令和3年8月22日
運転をしようとしたら猛烈なくしゃみに見舞われました。春になると花粉症に悩まされますが、いつも使っている薬が手元にあったのでのみました。見事におさまりました。そのことで少し思うところがあったので、また書いてみたいと思います。

と書いておきながら、“思うところ”について改めて考えていたら記述するのは意外と難しいことに気づき、二の足を踏んでしまっています。それと、過日、ちらっと「癌の治療薬が効かなくなること」について書いていましたが、それを仕上げるのもなかなか大変でした。

今回は、くしゃみは先送りし、癌細胞のことを書いてみたいと思います。
癌細胞を除去する目的で抗悪性腫瘍薬、いわゆる抗癌剤を服用したり、点滴など注射による投与をしたりします。癌細胞は癌細胞で、薬にやられないために、いろいろと対抗手段を講じてきます。一つには薬が癌細胞に入りにくくするための「くみ出しポンプ」のようなものを多量に生産する、薬を分解する(代謝する)酵素を癌細胞内に多量に生産することが考えられ、実際にこのようなことが起こっています。このようなことは、細胞を飼育することができるプラスティック製の皿(ディッシュ)と癌細胞と飼育装置があれば、実験室で比較的容易に研究することができます。それでこれまでに膨大な研究結果が発表されることになりました。これらの研究結果は、癌治療の進歩に大いに貢献してきました。

しかし、体内の癌細胞についてはもう少し考慮すべきことがあります。治療する場合には患者さんに投与するわけですから、体の中の癌細胞だけに注目して戦略を立てればよいわけではありません。一言で言えば、癌細胞をとりまく環境について知ることが極めて重要です。消化器癌、たとえば胃癌、大腸・直腸癌などの癌組織は細胞の塊です。プラスティック製のディッシュで平面的に生育している癌細胞と細胞の塊状になっている癌細胞とでは、全く同じ癌細胞から出発しても性質が異なる可能性は大いにあります。私たちの研究グループでは、同一のヒト癌細胞を平面的な状態で生育させる場合と、塊にさせた状態で維持する場合との違いについて研究し、いくつかの論文として公表してきました。体内で生育している塊の状態の癌細胞は、全く均一ではありません。一般に、癌組織を構成する癌細胞の中に、転移しやすく、薬が非常に効きにくい性質をもった非常にやっかいな細胞がいることで、薬による癌治療を難しくしていることもわかってきています。

そもそも癌細胞は、もともと我々の体の中にある正常な細胞が変化をとげてしまったものです。臓器にもよりますが、正常な細胞は、必要がなくなったら、あるいは、何らかの理由で損傷をうけたら死にます。それは、私たちが生命を営むために必要な過程なのです。しかし、癌細胞は、“必要な死“が起こらなくなった異常な細胞ということができます。そして、体内で”勝手に“増殖し、ほかの臓器に転移を引き起こし、個体を死に至らしめます。どうしたらこの状況を打破できるのか、そのために世界中で研究が進められています。

話を最初に戻して、今度こそは、くしゃみを抑える薬について思うところについて書いてみたいと考えます。

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