眠りの質を良くすることはできるでしょうか・・・(5) 令和3年4月4日
「2錠中ジフェンヒドラミン塩酸塩 50 mg」に興味をひかれ、ついにドラッグストアに陳列されている「睡眠改善薬」を2種類購入しました。そのうちの一つの1錠の重さは160~170 mgでした。こう書きました。
昨日3日は土曜日なので、ついにある銘柄の「睡眠改善薬」を服用しました。何事も少ない量からやってみましょうということで、1錠・25 mgの服用にとどめました。本日4日午前0時に服用しました。あっさり眠りに落ちました。毎平日の朝、出勤するときの習慣でしょうか、午前6時前に一度目覚めそうになりましたが、いわゆる二度寝、そのまままた寝てしまいました。結局、それからも眠りを妨げられることなく、午前7時過ぎに目覚めました。確かにスッキリとした目覚めでした。効能でいわれている通りだったと思われます。
ところが、です。起床してYahoo! JAPANをみていたら、猛烈なくしゃみの連発にみまわれました。そうです、花粉症、だと思います。私は花粉症でもあり、春は憂鬱です。
ここで、はっと・・・
就寝直前に服用した睡眠改善薬の有効成分はジフェンヒドラミン塩酸塩、これは抗アレルギー作用もあるはずで、花粉症のくしゃみにはある程度は効くはずなのに・・・もしかしたら、目覚めたくらいなので、ジフェンヒドラミンの効き目が落ちているわけで、これは、体の中からジフェンヒドラミンがなくなってしまったのでは、と思いました。そうなると、私の専門分野・薬物動態学からの考察をしてみる必要があります。「体の中に存在する期間の目安」としてよくつかわれる「半減期」というのを調べてみました。ところで、アイキャッチ画像は半減期の想像がつくといいなあと思って載せました。静脈内投与というのは注射ですが、縦軸の薬の血中濃度80→40(mg/L)に減るのに1時間くらい、40→20 (mg/L)に減るのにも1時間くらい、簡略化していますが、これをもって半減期約1時間といいます。実は縦軸を対数目盛のグラフに書き直すと右下がりの直線となって、このことがもっと理論的にはっきりするのです。
ジフェンヒドラミンの成人での半減期は約9時間という情報を得ました。そうだとすると、まだ、私の体内には少なくとも服用した25 mgの半分程度は残存しているはず、でも、この程度まで体内の量が減少すると、目覚めるくらいなので、効果も減少しているといえるかもしれない、などと考えました。もちろん、この考えは、朝になれば、脳内に目を覚まさせるというリズムによって覚醒のシグナルが出てくることも考慮する必要があり、ジフェンヒドラミンの体内量の減少だけで説明することは正しくはないだろうと思います。
さて、半減期約9時間の情報は:
竹中 信義ら
「致死量を超えて内服した市販薬トラベルミン®(ジフェンヒドラミン、ジプロフィリン配合剤)の急性中毒例」
日臨救急医会誌(JJSEM)
の論文に書かれていました。
この論文は救急医療で実際に経験されたトラベルミン®の過剰量摂取による中毒症例の報告です。トラベルミン®は、中枢性制吐薬で、乗り物酔いの予防に使われ、乗車、乗船の30分前に服用とされています。1錠中の成分はジフェンヒドラミンサリチル酸塩 40 mgとキサンチン誘導体:ジプロフィリン 26 mgの配合剤です。これまたドラッグストアでみてきましたが、成人で1回1錠の服用で、1箱に6錠しかはいっていません。1日に4時間以上の間隔をおいて1日3回まで、とされています。やはり、睡眠改善薬と同様に連日、何週間にもわたってのむことを意図されていないと考えられます。睡眠改善薬では、就寝前、ジフェンヒドラミン塩酸塩として50 mgが服用量でした。もしこちらを1日4時間の間隔で2回のんだとするとジフェンヒドラミンとしての最初の服用から8時間経過した時の体内残存量は、憶測になりますが、睡眠改善薬50 mgを就寝前にのんだ翌朝の残存量の2倍程度になる可能性があると思います。ただし、眠気に関しては、以下で触れますが、本剤では工夫がなされています。
一方、ジフェンヒドラミン塩酸塩を25 mgしかのまなくても翌朝スッキリ目覚める私は相当治療効果が高く、ジフェンヒドラミンによく応答する人ということになりますね。英語で言えばレスポンダ(Responder)という言葉を使います。
トラベルミン中毒の論文ですが、中毒症状をきたしたのは24歳男性で、救命できたのですが、トラベルミン®を100錠服用したことを、当該男性から聴取したと書かれています。文献によれば、当該中毒を呈した患者の中毒の原因物質はジプロフィリンよりは、ジフェンヒドラミンサリチル酸塩であろうと考察されています。ジフェンヒドラミンの作用に関する知見と男性の症状を基にそのように考えられたようです。
ジプロフィリンはキサンチン誘導体ですが、これは実はカフェインの誘導体(簡単にいえば類似物質)でして、ジフェンヒドラミンによる眠気を軽減するために配合されているようです。コーヒーを飲むようなものですね。この薬の配合の仕方はなるほどと思いました。
また、服用量はおそらくジフェンヒドラミンサリチル酸塩として4 gになりますが、ジフェンヒドラミンのヒトの致死量は40 mg/kg体重と報告されています。ということは、24歳男性の体重を仮に60 kgと仮定したとして、2.4 gが致死量になります。ジフェンヒドラミンの分子量は255、サリチル酸塩の分子量は393であることを考慮すると、摂取したジフェンヒドラミンサリチル酸塩が4 gだったとすると、ジフェンヒドラミンとしては2.6 gとなりますから、ほぼ致死量相当になりますね。
男性が100錠のんだ、ということですから、6錠の製品を少しずつ購入して買いためたのでしょう。もし一度に相当数を購入しようとした場合には、可能な限り購入を見合わせてもらうよう、理由もきちんと説明して薬剤師は強く指導する必要があります。ドラッグストアでの購入だとすると対応されるのは登録販売者かもしれません。こういったことは薬剤師や登録販売者の非常に重要な役割です。確実に人命を救うことに貢献します。
参考文献1
竹中 信義ら、日臨救急医会誌(JJSEM) 2017; 20: 672-677.