くすりの効き方の不思議さ・面白さ・・・(18)
令和3年12月21日
「転倒に端を発した肩痛」に対して処方していただいた劇薬の規制区分となっている治療薬は相変わらずできるだけ使わず、手元においています。
ところが、徐々に痛みを感じるようになってきました。気温のせいかとも思いますが、本当のところはわかりません。更新が遅くなってしまったのを痛みのせいにしてはいけませんが、痛みを気にして、絶対に済ませなければならないことを優先せざるを得ない最近の状況が関係しているとはいえるかもしれません。
というわけで、更新がずいぶん遅くなってしまいましたが、前回「劇薬」の定義について、「例えば、急性毒性(概略の致死量: mg/kg)が次のいずれかに該当するもの、とあり、経口投与の場合、毒薬が30 mg/kg以下、劇薬が300 mg/kg以下の値を示すもの。」と書きました。
私が服用しているものについて、興味深い報告を見つけましたので、今日は薬の効き方の動物種間の違いについて書いてみたいと思います。
国外の研究グループにより公表されている論文(Backら、Korean J Vet Res (2017) 57: 55-57)には、「(いま服用中の消炎鎮痛薬に類似した薬は)イヌの変形性関節症の治療にも製造販売承認されている。」との書き出しで始まっています。さらに、ネコに対しては、肝臓や腎臓への毒性が現れると書かれています。
広く生物は、自分の体内には存在しない物質を無害で尿に溶けやすい形にして体の外に出す働きを備えて体をまもっています。イヌやヒトには備わっている「肝臓など体内で無害な物質に変換するメカニズム」がこの種の物質群については、ネコには備わっていないことによるようです。
生きているだけで、私たちはいろいろな物質にさらされています。それはイヌやネコも同様です。ということは外界の多種多様な物質を無毒な物質に変換してくれる体内にある酵素は一種ではなく、たくさんあります。酵素はタンパク質ですから、遺伝子を設計図として体内で作られます。ここで話題にしている鎮痛薬や、だいぶ化学構造が異なる発がん物質をあえて持ち出して比較すると、異なる酵素がこれらを無害な物質に変えてくれています。当然ですが、それら酵素の設計図となっている遺伝子もまた異なっています。イヌやヒトがもっていて鎮痛薬を無害なものに変えてくれる酵素の遺伝子が、ネコでは機能を果たす酵素を作ることができない偽設計図になってしまっているようです。偽設計図とは妙な表現ですが、設計図となっている遺伝子が専門用語で「偽遺伝子」と呼ばれるものになっていることを借用しています。これはネコ科動物であるライオンやトラでもいえることのようです(Mizukawaら、YAKUGAKU ZASSHI (2017) 137:257-263)。
今回は、イヌ、ヒト、ネコの間の鎮痛薬の無毒化能力の違いに話が向いてしまいました。再発した自分の肩痛については次回に書いてみようと思います。