2019年度学位取得 博士(薬学)
菊池 光太 さん(1期卒業生)
神経科学分野

現職:盛岡赤十字病院 薬剤部

講座・分野:生物薬学講座・神経科学分野

 

プロフィール

出身地:岩手県遠野市

平成19年 岩手医科大学薬学部 入学

平成25年 岩手医科大学薬学部 卒業、薬剤師国家試験合格

盛岡赤十字病院薬剤部 就職

平成27年 岩手医科大学大学院薬学研究科博士課程 入学

医療薬学コース・分子病態解析学分野

令和 2年 岩手医科大学大学院薬学研究科博士課程 修了

 

① 現在の職場を選んだ理由、社会人大学院生となった理由

私が大学4年生の時に東日本大震災が発生し、県内外の多くの方が被災されました。沿岸部の高校出身だったこともあり津波被害のボランティアに参加しましたが、当時見慣れていた光景が一変し、街の姿が失われたことにショックを受けました。その一方で、災害救護や医療活動を行っている方々に対する感謝の思いとともに、自身も医療従事者として恩返しがしたい気持ちが募り、薬学部卒業後は盛岡赤十字病院に勤めることになりました。薬剤師として病棟で服薬指導を行ったり医師と治療内容について話し合ったりするようになってからは、論文を読み解いて最新の医学知識を臨床に還元する能力や臨床研究を行う能力の必要性を感じることが多くありました。また、私は教えることが元々好きだったことに加え、将来的に大学で教育に携わりたいとの思いから、大学時代からの恩師である駒野宏人教授の元で、社会人大学院生としての生活をスタートさせました。

 

② 大学院での研究内容

大学院博士課程では、アルツハイマー型認知症の重要な原因分子として知られるアミロイドβタンパク質(amyloid β-protein; Aβ)の産生メカニズムの解析を研究テーマとしました。日本人は現状でも平均寿命が長く、これからもさらに平均寿命が伸びるのではないかと言われています。一方で、平均寿命の延長は、高齢化に伴う疾患の増加にもつながっており、特にアルツハイマー型認知症は日本社会が抱える問題の一つとして認識されています。現在、アルツハイマー病の進行を抑える薬はありますが、アルツハイマー病を治す薬や予防する薬はありません。そこで、アルツハイマー病において神経細胞死を引き起こすがどのようにして産生されるのかを研究することで、治療薬の開発につなげたいと考えています。駒野教授の研究室では血圧を調節するアンギオテンシンの受容体による産生経路を発見していましたが、大学院博士課程での私の研究により、これまで単量体として機能すると考えられていたアンギオテンシン受容体とアドレナリンβ2受容体の相互作用による産生制御という新しい産生経路の存在を明らかにすることができました。

③ 仕事や研究でのやりがい

大学院では、臨床での業務と大学での研究を両立させるために、業務終了後の時間や休日を活用して研究を行うなど時間の有効活用が必要となり、ハードな日々でした。しかしながら、臨床現場での疑問や患者さんが困っていることを、基礎研究という手法で解き明かすことができるということが大きなモチベーションとなり継続することができました。大学院在籍中に読んだ論文が薬剤師としての業務における問題解決となるだけでなく、そこから得られた知識を分かりやすくまとめて他の医療従事者と共有することは医療の質の向上につながります。また基礎研究と臨床とでは仕事の内容が異なっているように見えますが、それぞれの過程の中で得られた能力を統合させることで相乗効果を生み,患者さんの疑問・不安の解消や治療において最適な薬剤選択や用量設定につながるので、私としては大きなやりがいを感じています。

 

④ これから目指す方向

大学院博士課程での研鑽を医薬品の作用機序や副作用発現メカニズムの深い理解へ繋げるように心がけ、そこで得た知識や技能を臨床現場での薬物療法の有効性や安全性の向上に寄与したいと考えています。また、基礎研究に携わることで得た知識を職場内へフィードバックし、薬剤師全体の更なる質の向上の一助となれるように努めていきます。さらに大学院卒業後も研究員として大学に所属することにより、薬学の発展に寄与しつつ、後進の育成に携わりたいと考えています。

 

⑤ 後輩へのメッセージ

薬剤師としての大きな志を持ちながらも、仕事上の不安や薬物治療上の疑問等により、薬剤師としての将来像を思い悩んでいる方がいると思います。また、私のように教育に興味がある方や、臨床研究能力を高めたいと考えている方も多いと思います。そういった方にとって、大学院進学は一つの選択肢となり得るのではないでしょうか。悩んだ際にはまず“チャレンジしてみる”という考え方も大事だと思います。大学院進学のみならず、今後の人生において、今この瞬間を精一杯生きていくということが医療に貢献する私たちのモチベーションや活力となり、いろいろな疾患の治療に苦慮されている方々の救いにつながると考えています。すでに薬剤師として医療に従事されている方、またこれから薬剤師を目指す方、薬学の発展のために一緒に頑張っていきましょう。

 

2020年4月

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