【概要】 岩手医科大学、長崎大学、がん研究会の共同研究により、薬剤耐性非小細胞肺がんの新規治療薬シードを開発しました。本研究成果の全文が、3月24日にCancer Science誌に掲載されました(https://doi.org/10.1111/cas.14839)。また、本研究成果は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の支援を受けて、PCT国際出願(PCT: Patent Cooperation Treaty)を果たしました。現在、米国、欧州等への移行手続きが終了し、日本においても審査請求の段階にあります。
【背景】 がんは日本人の死亡原因の中で最も多い疾患です、統計上は、一生のうちに2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんで亡くなっています。がんの中でも、肺がんの死亡者数が最も多く、毎年12万人以上が新たに肺がんと診断されています。
近年の肺がんの薬物療法では、遺伝子検査に基づく個別化医療が標準的です。上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子に変異のあるタイプの非小細胞肺がんでは、変異型EGFR阻害薬であるゲフィチニブ(商品名:イレッサ)やエルロチニブ(商品名:タルセバ)が一次治療薬として用いられ、がんの大幅な退縮がみられるなど劇的な治療効果が見られます。その一方で、治療開始後1年程度で薬剤の効果が見られなくなる耐性化が臨床上の問題となっています。ゲフィチニブ耐性を克服する目的で開発された第3世代EGFR阻害薬オシメルチニブ(商品名:タグリッソ)にも耐性を示す新たな変異EGFR C797Sも報告されています。現在のところ、この新型変異体EGFR C797Sに有効な医薬品は上市されていません(図1)。
【研究成果】 岩手医科大学、長崎大学、がん研究会の共同研究で開発したラメラリン14は、オシメルチニブ耐性変異型EGFR C797Sにも有効性を示す新たな抗がん剤シードです。ラメラリンは、海洋生物ベッコウタマガイの一種から単離された天然物化合物です。このラメラリンを化学的に変換して新たに合成した誘導体(図2)は、10 nM以下というごく微量で、耐性変異を含む複数のEGFR変異体を阻害し、ヒト肺がん細胞に対する抗腫瘍効果を示します(図3)。ラメラリンは、既存のEGFRとは全く異なる構造を有するために、他のEGFR阻害薬に対する耐性化変異の影響を受けにくいと考えられています。
問い合わせ先
岩手医科大学 薬学部 臨床薬学講座 情報薬科学分野
教授 西谷 直之 (にしや なおゆき)
Phone: 019-651-5111(内5120)
e-mail: nnishiya@iwate-med.ac.jp